。」
嘉三郎は二人を睨《にら》みつけるようにして言った。その眼はぎらぎらと涙で濡れていた。頬にまで涙は流れて来ていた。
「嘉津! お前もよく覚えて置けよ。」
父親の嘉三郎はそう言って出て行った。松代は、遣《や》る瀬《せ》なさそうに、嘉津子の頭を自分の胸へぐっと抱《かか》えた。嘉津子は母親の胸の中で静かに歔欷《すすりなき》を始めた。
「殺すようなことまでしねえよ。威《おど》すだけさ。お父さんの気持ちになれば無理のねえことだし……」
松代は漸くそれだけを言った。
三
暗くなるまでには四時間あまりもあった。高清水《たかしみず》は、歩いて行っても、三時間で行けるところだった。汽車もあるにはあるが、小牛田《こごた》で東北本線に乗り換え、瀬峯《せみね》まで行ってから軽便鉄道で築館《つきたて》まで行き、そから高清水まで歩くとなると、乗り換え時間の都合や何かで、三時間ぐらいで行けるかどうかわからなかった。それに、嘉三郎は、蟇口《がまぐち》をもたずに家を出て来てしまったのだ。併し、汽車のあるところを、てくてく歩いて行くなどということは、嘉三郎の気持ちの、どうしても許さないことだった
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