るんだね? お父さんは!」
「畜生どもめ! 叩き切ってやる。先祖の面を汚しやがって。」
「何を言うんだね? お父さんは! 狂人《きちがい》のようなことを言ったりして……」
「なんでもいいから早く出して来う。俺家《おらがうち》は、代々《だいだい》、駆落者《かけおちもの》なんか出したことのねえ家だ。犬共め!」
「それはそうかも知んねえが、代々、こんなに零落《おちぶ》れたこともあんめえから。」
「出して来ねえのか? そんなら自分で出して来るからいいで。貴様《きさま》まで精神《こころ》が腐りやがった。」
嘉三郎は叫ぶように言って座敷へ這入《はい》って行った。
「お父さんてば!」
松代は泣きそうにして嘉三郎の手に縋《すが》った。併し嘉三郎は、ぐんぐんと箪笥《たんす》の前へ寄って行って曳《ひ》き出《だ》しを開けた。同時に、どこから飛び出して来たのか、次女の嘉津子《かつこ》も父親の腕に縋った。
「お父さん! お父さんたら! お父さん!」
併し、嘉三郎は、左手に刀を握りながら、右手でぐっと、松代と嘉津子とを払い除けた。
「男のすることにあ、例えどんなことにもしろ、女どもが口出しをするもんじゃねえ
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