家柄家柄って、昔のことなど、幾ら言って見ても何になるべね。俊三郎《しゅんざぶろう》なんかも、家柄のために、なんぼ苦労しているだか。自分じゃあ気楽に百姓していたがるものを、お父さんが(俺家《おらがうち》の伜《せがれ》も東京へ勉強に出ていますがな!)って言って髭を稔っていてえばかりに、銭の一文も送れねえのに無理に苦学になど出してやって……」
松代はそう涙声になりながら続けた。
「馬鹿! 俊や美津のことなど言うなっ! 黙っていろ!」
嘉三郎は又そう怒鳴った。それで二人の間の争いはぷっつりと消えた。重い沈黙がそして拡《ひろ》がって来た。
そこへ庭から郵便配達が這入《はい》って来て、嘉三郎の膝のところへ、一通の封書をぽんと投げて行った。嘉三郎は髭を剃るのをやめて封書を取り上げた。そして、嘉三郎は、驚異の眼を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》りながら、大急ぎで封を切った。
二
嘉三郎は手紙を読みながら、咽喉《のど》をごくりごくりと鳴らして、何度も唾を嚥《の》み下した。そのうちに両手がわなわなと顫《ふる》え出して来た。そして彼の眼頭《めがしら》には、ちかちかと涙
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