さえ光って来た。
「郵便が来たんじゃねえかね?」
松代がそう言いながらそこへ出て来た。
「美津の畜生め!」
嘉三郎は突然そう怒鳴って、手にしていた手紙を滅茶滅茶《めちゃめちゃ》に引き裂いた。
「何をするんだね? お父《とっ》さんは! それで美津は、どこにいるんだね?」
「美津の畜生め? 俺の顔に泥を塗りやがって、いくらなんでも鼻の先にいべえとあ思わなかった。」
「美津はどこにいるんだね?」
「忠太郎の野郎と一緒に高清水《たかしみず》にいやがるで、忠太の恩知らず野郎め! 泥足で俺の顔を踏みつけやがって。」
「忠太郎と一緒にいるのかね? 最初からそんなような気がしていたよ。忠太郎ならいいじゃねえかね?」
「馬鹿!」
嘉三郎はまたそう怒鳴った。そして髭を剃るのをやめて、黙々《もくもく》と、炉端《ろばた》へ行って坐った。松代は怖々《おずおず》と、炉端へ寄って行った。そしてお互いにしばらく凝《じ》っと黙っていた。嘉三郎は眼を伏せるようにして、溜め息をつきながら炉の上に屈み込んでいたが、灰の上にぽとりと涙が落ちた。嘉三郎は、涙をそっと押し隠すようにしながら静かに顔を上げた。
「松! 着物を出
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