計な口出しをするな!」
 嘉三郎は怒鳴るようにして言い返した。
「余計なことであるもんですかよ。いくら髭に税金がかからねえからって、何も、世間の物笑いにまでされて……」
「笑いたい奴には笑わして置けばいいじゃねえか。俺には俺の考えがあるんだ。俺の気持ちが部落の奴等になどわかるもんか。」
「お父さんがその気だから、美津《みつ》なんかだって、家にいられねえんだよね。そりゃあ、美津は、お嬢さんで育ったかも知んねえけど、今は現在《いま》なんだから、どこへだって嫁にやってしまいばよかったんですよ。それを、お父さんたら、昔のことばかり言って、美津や嘉津が(お嬢さんお嬢さんて!)言われていた時の気で髭ばかり捻《ひね》っているもんだから、結局、誰ももらい手が無くなってしまったんでねえかね。」
「馬鹿っ! 貧乏はしても嘉三郎だぞ! そこえらの水呑《みずのみ》百姓と縁組《えんぐみ》が出来ると思うのか! 痩せても枯れても庄屋の家だぞ。考えても見ろ! 何百人という人間を髭を捻《ひね》り稔り顎《あご》で使って来てる大請負師《おおうけおいし》だぞ。何は無くっても家柄《いえがら》ってものだけは残っているんだ。」

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