栗の花の咲くころ
佐左木俊郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)暗欝《あんうつ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一栗の嘉三郎|旦那《だんな》じゃねえかね?
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)眼を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》りながら
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一
暗欝《あんうつ》な空が低く垂れていて家の中はどことなく薄暗かった。父親の嘉三郎《かさぶろう》は鏡と剃刀《かみそり》とをもって縁側《えんがわ》へ出て行った。併し、縁側にも、暗い空の影が動いていて、植え込みの緑が板敷《いたじき》の上一面に溶けているのであった。
「それでも幾らか縁側の方がよさそうだで。」
嘉三郎はそう呟くように言いながら、板敷へ直《じ》かに尻を据《す》えて、すぐ頬の無精髭《ぶしょうひげ》を剃りにかかった。
「お父《とっ》さん! 序《ついで》に、鼻の下の方も、剃ってしまいなせえよ。」
障子《しょうじ》の中から母親の松代がそう声をかけた。
「余
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