しく勘定をして、梅雨《ばいう》の暗い往来へ出て行った。

     五

 饂飩屋《うどんや》の横を、嘉三郎は、黙って奥へ這入《はい》って行った。庭に栗の木が一本あって、濡《ぬ》れ葉《ば》がばらばらと、顔に触れた。そして、栗の花の香《か》が鼻に泌《し》みた。
 ちょうどそこへ、忠太郎がどこかへ出るのらしく、立て付けの悪い板戸を開けたので、薄い光が、幅広《はばひろ》い縞になつて流れ出して来た。
「忠太郎!」
 嘉三郎はそう声をかけた。
「あれ! お父《とっ》さんだぞ。美津! お父さんが来た。起きろ。」
 忠太郎は狼狽《ろうばい》しながら言った。
「美津の病気はどういう具合だ?」
 嘉三郎はそう言いながら中へ這入った。
「お父さん!」
 美津子は寝床の上へ起き上がって凝《じ》っと父親の顔を視詰《みつ》めた。
「寝てろ! お前が病気だっていうから来て見たのだが、病気は、どんな具合だ?起きてでいいのか?」
「風邪《かぜ》を少し引いて……」
 横から忠太郎がそう言った。
「今時の風邪は永引くもんでなあ。それにしても、風邪ぐれえなら、安心だ。母親《かかあ》が心配してたぞ。」
「お父さん!」
 美津
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