たり、自分もここで養鶏をしたり園芸をして夏から秋を暮らしたいというのだった。
 その頃から、原始林の中を抜けて、村里の方から、折々は巡査も廻って来るようになった。ひどく毛虫を怖《こわ》がるという噂のある巡査だった。
 或る真夏のことだった。開墾場の人々は、事務所の前から原始林を過ぎて村里へ通ずる路の、路普請《みちぶしん》だった。そして彼等の一団が、原始林の入り口のところで休んでいると、ちょうどそこへ、毛虫を怖がるという若い巡査が廻って来た。肌を脱いで煙草を燻《くゆ》らしながら語り合っていた彼等は、周章《あわて》気味にそそくさと着物に手を通し、無言で深く腰を屈《かが》めた。そしてそこへまた腰をおろした。
 若い巡査は軽く頷《うなず》いて、微笑《ほほえ》みながら佐平の方へ歩み寄って行った。そして巡査は言った。
「あの、佐平って言うのは、おまえかい?」
「はい、私が佐平で御座りますが……」
 佐平は起きあがって驚きの眼を巡査にむけた。ひくりと口尻を動かして微笑んだ。
「おまえは、この開墾場一の嘘つきの名人だという噂だが、僕の前で一つ、その名人振りをやってみせないかい? おまえの噂は、浦幌の方
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