た。
「何を言いやがるんだ。郷里で乞食が出来るかい? 乞食は大抵他国へ行ってするもんだぜ。我々だって、乞食する積もりでここさ来たんじゃねえか。土地をもらうんだぞ。よっぽどの襤褸《ぼろ》を着ねえじゃ、もらわれめえじゃねえか?」
 佐平はこう言って、皆《みんな》を笑わせた。皆は、土地をもらうという言葉で元気になるのであったが、しかし、移住当時のまま一枚の着物すら作れないような自給自足の生活が三四年も続くと、彼女達の着物は雑巾《ぞうきん》よりもひどくなった。雪に閉じ籠《こ》められて働けない冬|籠《ご》もりの期間は、馬鈴薯と南瓜ばかり食っているために、春になると最早《もはや》、顔が果物のように黄色を帯びて来て、人間の肌色を失っているのだった。
「こんなにまでして稼いだら、郷里《くに》の方にいたって、一段歩や二段歩の土地なら、もらわなくたって、自分で買えたべがなあ。」
 こう、男達さえ言うのだった。
「馬鹿なことばかり言って、貴様達は、買って自分のものにした土地と、こうして開墾して自分のものにする土地の、価値《ねうち》の区別を知らねえんだものな。買った土地ってものは、他人のものが自分のものになっ
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