木の姿を想い求めずにはいられないのです。
○
さらに私達のなつかしむのは、あの古典的《クラシック》な樹皮《じゅひ》です。渋い渋い感じの、そして質朴な、あの樹皮です。あの龍のような不格好《ぶかっこう》な老樹が、もし滑々《すべすべ》した肌をもっていたら、それはとても見られたものではないでしょう。それに、絵の具をぬたくったようにくっついているあのうめのきごけ[#「うめのきごけ」に傍点]が、どんなに私達の心を落ち着かし、古典的《クラシック》な感じを与えるか解《わか》らないのです。それは、うめのきごけ[#「うめのきごけ」に傍点]が、樹皮の乾燥《かんそう》している老幹《ろうかん》に宿をかりるという、科学的な、又は自然的な関係からばかりでなく、自然の美的情緒を深めるためにも、梅の老樹を灰白色《かいはくしょく》に、或いは茶褐色《ちゃかっしょく》にぬりつぶしているような気がします。
○
深い香りの花です。本当に深い香りを漂《ただよ》わせる花です。それが燥《はしゃ》ぎきった空気の中を遠くまで流れて行きます。小鳥も人間も、この香りに花の在所へと誘《さそ》われるのです。鼻の感覚
前へ
次へ
全12ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐左木 俊郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング