、なんといっても頑固《がんこ》なお爺さんです。併し、なんとなく気品のある老人です。それだけ梅の樹には、老人がよくうつります。まず私達は、土器《かわらけ》のように厚ぼったく節くれだち、そして龍のようにくねった梅の木を想い描《えが》くとき、その下に、曲がった腰を杖に支えて引き伸ばし、片手を腰の上に載せた白髯《はくぜん》のお爺さんや、白い頭を手拭《てぬぐ》いに包んで、鍬《くわ》の柄《え》を杖に、綻《ほころ》びかけた梅の花を仰いでいるお爺さんを想い描かずにはおられないのです。そしてそれは、決して美的な空想ではなしに、私達は奇妙なほど、ひねくれ曲がった梅の樹に、老人のつきまとっているのを見るのです。
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梅の樹の、最も私達の美的情緒《びてきじょうちょ》を惹《ひ》くのは、なんといっても、やはりその樹形《じゅけい》の節くれだってひねくれているところだと思います。利鎌《とがま》のような月の出ている葡萄色《ぶどういろ》の空に、一輪二輪と綻《ほころ》びかけている真っ直ぐな枝の、勢いよく伸びているのもいいものです。ですが、その若い枝の根元《ねもと》から、私達は、ひねくれながら横へそれている老
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