その時ほど梅の花が純潔《じゅんけつ》に、気高《けだか》く見えることは無いのです。又、まんまるにふくらんだ白い蕾《つぼみ》が、内に燃える発動《はつどう》を萼《がく》のかげに制御《せいぎょ》しながら、自分の爆発する時期を待っているのもいいものです。そして、このとき梅の花は、その中央に抱《だ》く雌芯雄芯《めしべおしべ》の色や、ふくらんだ褐色《かっしょく》の蕾《つぼみ》と調和して、最も質朴《しつぼく》に見え、古典的《クラシック》な感じを与えるのです。
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梅の花の美的情緒《びてきじょうちょ》は、小鳥をはなして想い描《えが》くことが出来ません。わけても雀です。そしてその時の梅の花は、本当に冴えざえしく見えるのです。小鳥は又、花の香りを嗅《か》ごうとするように、やけに鼻先を突き付けて、さては蕾《つぼみ》を啄《ついば》んだり、花を踏みこぼしたりするのです。そして小鳥たちの歌う歌から、一声ごとに、明るい世界が開けて行き、梅もそれにつれて、花は香りを深め、蕾は弾《はじ》けて行くように思われます。
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梅の樹は老人くさい木です。あの節くれだって、そしてひねくれているところは
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