ん》と輝くのを待ち焦《こ》がれているからです。
梅
梅の花はなんとなく先駆者《せんくしゃ》という感じです。寒さをおそれず、肌を刺すような北風の中で弾《はじ》けるだけに、なんとはなしに草木の先駆者というような気がします。梅の花の一輪二輪と綻《ほころ》びるころの朝夕は、空気がまだ本当に冷えびえとしていて、路傍《ろぼう》には白刃《しらは》のような霜柱が立ち並び、水溜まりには薄い氷がはっています。私達は冬の長い習慣で、襟《えり》の中にすくんでいる首を、無理に伸ばすようにして、ふところ手のまま見上げるのです。本当に、ふところ手のまま、一輪二輸と綻《ほころ》びかけたのを見上げるのです。
○
梅の花は落ち着いています。本当に沈着《ちんちゃく》な花です。思い切って、一度にぱっと開くことの出来ない花です。梅の花の妙味《みょうみ》はそこにあるのだと思います。あの、早春の鉛色《なまりいろ》の空を背景にして、節《ふし》くれだった、そしてひねくれ曲がった枝に、一輪二輪と綻《ほころ》び初《そ》めるところは、清新《フレッシュ》な、本当になんとも言われない妙味のあるものです。そして又、
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