まる》のように、親を尋ねて漂泊《さまよ》う少年少女が、村から村へと越える杉杜《すぎもり》の中の、それも鬱蒼《うっそう》と茂った森林の中の、そして岸には葦《あし》が五六本ひょろひょろと生えていて、緑《あお》い藻などが浮き、鏡のように動かない古池に、ぽっつり夢のように浮いている睡蓮の花を見たら、きっと、泣き出したに相違ありません。哀《かな》しい少女の心には、睡蓮のあの可哀想な、淋しそうで悲しそうな、あの気持ちがあまりにもぴったりはいって来るからです。
       ○
 衰滅の美[#「衰滅の美」に傍点]――という言葉があります。私達は、屋島《やしま》の戦いに敗れた平家の話や、腺病質《せんびょうしつ》の弱々しい少女が荒い世の波風にもまれている話を聞くとき、その哀れな一種の美しさにうたれます。――それが衰滅の美[#「衰滅の美」に傍点]というのでしょう。睡蓮の花はどうかすると、この衰滅の美という言葉に、ぴったりすることがあります。あまりにも可憐な、弱々しい花だからです。
 昔の栄華《えいが》を語る古城のほとり、朽ちかけた天守閣には蔦《つた》かずらが絡《から》み、崩れかけた石垣にはいっぱい苔《こけ
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