ル一本買ってもらわれねえなんて。――そうだわ、そうだわ、豊作さんの言った通りだ。「俺等《おらら》みでえなもの、こんな田舎にいたんじゃ、うだつがあがらねぇ。田作れば小作料が高《たげ》えくって、さっぱり徳がねえし、馬鹿馬鹿し。日傭《ひでま》稼ぎに行ったって賃金が廉《やす》いし、なにしたって、売るもの廉ぐって、買うもの高《たげ》んだから、町の奴等ばり徳さ。」と言った豊作の言葉を彼女は実際だと思った。
町の人達が、田舎の金をみんな持って行ってしまうことは、爺さんも言っていた。自分の町場へ生まれなかったことを彼女は残念に思った。町場の娘達は、どんな貧しい家の娘でも、自分よりは幸福であるように彼女は思った。
母さんが生きてでくれたら……と、菊枝は死んだ母のことを想い出した。涙がまた、ほろりとまろび出た。彼女は手拭いの端で眼を押《お》さえた。
五
その日、菊枝は一日中|憂鬱《ゆううつ》だった。
明日は六社様のお祭りだ! 明後日は、祭りの翌日で、草臥《くたび》れ休みだ。彼方此方《あちらこちら》の田圃に散らばって田の草を取っている娘達は、皆んな歌ったり巫山戯《ふざけ》たり、大変な元
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