ながら言った。
「うむ、うむ。五十銭はやれよ。」と婆さんが横から言葉をはさんだ。
「俺、小遣い銭などいらねえから、あのう、あの、パラソル買ってもらいでえな。」
 菊枝は、長い間心に潜《ひそ》めていた要求を、初めて言い出していい機会が与えられたように思ったのであった。
 全くそれは、長い間心の中に潜められていた切《せつ》なる要求であった。もうみんな、既に二本のパラソルさえ持っている人があるのに、菊枝はまだ、死んだ母が遺《のこ》して行った古い蝙蝠傘《こうもりがさ》を持っているだけであった。明日の、六社様《ろくしゃさま》のお祭りのことを思うと、彼女はどうしても一本のパラソルがほしかった。
 併し、菊枝がそれを言い出すと、爺さんや父親の、今の今まで彼女に示していた悦びの感情は、急に一変してしまったかのようであった。
「なに? パラソル? あの、紫色の、へんつくりん[#「へんつくりん」に傍点]な格好《かっこう》の蝙蝠が?」と春吉は、驚きの眼を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》った。
「俺、紫色でねえで、水色のいい。紫色では、あんまり派手だから。」
「そんな贅沢《ぜいたく》なごとば
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