った。
「父《とっ》つあん、俺、先に出掛けて、片岡さ寄って行んから、父つあんは、真っすぐに田圃《たんぼ》さ行ぐんだ。」
菊枝は、食事の父親に、こう言い置いて、すぐにも出掛けそうな様子だったが、彼女はまだそのままもじもじしていた。
「春吉あ、菊も、いい稼人《かせぎにん》になったぞ。今朝刈った草なんか、一人|前《めえ》以上だぞ、ありゃ。」
爺さんは煙草を燻《ふ》かしながら、非常に機嫌がよかった。菊枝は下を俯《うつむ》いて、足指で、板の間に何か書いていた。春吉は、菊枝の立っている方へ眼をやりながら、微かに口元を痙攣《けいれん》させた。
「ふんとに、いい稼人になってけでまあ。――今朝のなんか、二人前以上もあんべがら……」と婆さんは、庄吾が学校へ持って行く握り飯を焼きながら柔和な微笑を浮かべた。
春吉は、たまらなく嬉しかった。今まで爺さんからなど、一度だって、ほめられたことなどはなかったではないか? 口喧しい爺さんから、何かにつけては怒鳴られてばかりいる菊枝ではなかったか? 春吉は、浮き立つほど嬉しかった。
「明日は、どっさり小遣い銭やんべでや。なあ菊!」
春吉は飯を掻《か》き込《こ》み
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