なかったから。
「今の奴等あ、ろぐろぐ稼ぎも出来ねえで、贅沢《ぜいたく》べえぬかしゃあがって。――機械でねえげ、仕事はあ出来ねえもんだと思ってからあ。贅沢べえぬかしゃあがって……」
 爺さんは口癖のように言うのであった。若い人達は、爺さんのその言葉を嫌った。菊枝は、爺さんのその言葉を、嫌っていたし、怖れてもいた。彼女の要求がいつも爺さんのその言葉で打ち砕《くだ》かれた。
 菊枝の母が、若い年で死んだ時などは、村中に「あの爺《じん》つあまに追い廻されちゃ……よっぽどの稼人《かせぎて》だって死んでしまうべさ!」という噂が立ったほどだった。
 併し、爺さんも弱ってしまった。今は、怠け者の、口喧《やかま》しい爺さんとしての存在でしかなかった。伜や孫娘のすることに、うるさいほど嘴《くちばし》を入れるだけで、しょぼしょぼと、薄暗い室《へや》の中に燻《くすぶ》っていた。

     三

 夜明け前から出掛けて行った父親の春吉が、山畑でひと仕事して帰って来た時は、大百姓の(それは大きな自作農であった)片岡の家に、日傭《ひでま》に行くので、先に食事を始めた菊枝が、ちょうど食事を終わったばかりのところだ
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