日がかりで刈ることになっていた。併し、今朝は、彼女は不思議にも、いつもの二倍も刈って帰って来た。
「これなら婆《ばば》さん、今朝は、半分やっていがんべ?」と彼女は、濁しかけた言葉を巧みに言い更《か》えた。
「いいども、爺《じん》つあんはあ、なんぼか悦ぶべ。」
「ああ、暑かった。」
 菊枝は、もう一度こう言って、まだ赤くなっているその顔を、手で拭きながら、婆さんと一緒に馬小屋の前をはなれた。
「冷《つめ》てえ、井戸水で面《つら》洗って。もうお飯《まんま》はあ出来でっし、おつけも、この茄子せえ入れればいいのだから、早く食ってはあ。――片岡さ行ぐのに遅ぐなんべ。」
 婆さんはそう言い捨てて、茄子を洗いに井戸端へ行った。

     二

 爺さんは、むっつりと、苦虫を噛みつぶしたような面構えで、炉傍《ろばた》に煙草を燻《ふ》かしていた。弟の庄吾は、婆さんの手伝いで、尻端折《しりはしょ》りになって雑巾《ぞうきん》掛《が》けだった。
「爺つあん、今日は、午《ひる》めえは草刈っさ行かねってもいいぞ。」と菊枝は、土間を掃こうと箒を取りながら言った。
「俺あ今朝、午《ひる》の分まで刈って来たから……」
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