その雑草と一緒に、馬小屋の前に仰向きに身体《からだ》を投げ出した。ほつれ下がった髪が、ぺったり顔にくっついていた。
「ああ、暑々《あつあつ》。」
 菊枝は身体を投げ出したまま、背負っている草の上に、ぐったりとなって、荷縄《になわ》も解かずに、向こう鉢巻きにしていた手拭いを取って顔や襟首の汗を拭った。
 婆さんが、裏の畑から、味噌汁の中に入れる茄子《なす》をもいで、馬小屋の前に出て来た。春からの僂麻質斯《リュウマチス》で、左には松葉杖をついていた。
「おう、おう、重かったべさ。二人めえもあっちゃ。」
 蒼《あお》白い皺《しわ》だらけの顔に、婆さんは、鷹揚《おうよう》な微笑を浮かべて、よろこびの表情を示した。
「俺《おれ》あ、ほんとに腰骨折れっかと思った。眼《まなぐ》さ、汗は入《へ》えっし……」
「うむ重かったさ。――それにしても、よくこんなに刈れだで。」
「なあに、あの……」と菊枝は、語尾を濁した。
 実際、菊枝は、こんなに多くの草を刈って帰って来たことは無かった。いつも彼女の刈って来る量は、一回投げ込むだけのものであった。だから、午《ひる》に投げ込むのと、夕方のとは、彼女の爺さんが、一
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