駈落
佐左木俊郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)胡粉《こふん》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一人|前《めえ》以上だぞ
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)眼を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》った。
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一
朝日は既に東の山を離れ、胡粉《こふん》の色に木立を掃いた靄《もや》も、次第に淡く、小川の上を掠《かす》めたものなどは、もう疾《と》くに消えかけていた。
菊枝は、廐《うまや》に投げ込む雑草を、いつもの倍も背負って帰って来た。重かった。荷縄《になわ》は、肩に焼《や》け爛《ただ》れるような痛さで喰い込んだ。腰はひりひりと痛かった。脛《すね》は鍼《はり》でも刺されるようであったし、こむら[#「こむら」に傍点]は筋金でもはいっているようだった。顔は真赤《まっか》に充血して、額《ひたい》や鼻や頬や、襟首からは、汗がぽたぽたと滴《したた》り落ちた。
「ああ、重かったちゃ。俺あ!」
こう言って菊枝は、
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