郷愁
佐左木俊郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)襲《おそ》われる
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)五十|燭《しょく》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから2字下げ]
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私はよく、ホームシックに襲《おそ》われる少年であった。
八百屋の店頭に、水色のキャベツが積まれ、赤いトマトオが並べられ、雪のように白い夏大根が飾られる頃になると、私のホームシックは尚《なお》一入《ひとしお》烈しくなるばかりであった。
そんなとき、私は憂鬱《ゆううつ》な心を抱いて、街上の撒水《うちみず》が淡い灯を映した宵《よい》の街々を、微《かす》かな風鈴《ふうりん》の音をききながら、よくふらふらと逍遙《さまよい》あるいたものであった。
店の上に吊《つる》された、五十|燭《しょく》ぐらいの電燈が、蒼白《あおじろ》い、そしてみずみずしい光をふりまき、その光に濡れそぼっている果物屋の店や、八百屋の店は、ますます私の心を、憂鬱に、感傷的にしてしまうばかりであった。併し私は、馬鹿馬鹿しいほど淋しく、物哀れな気分になりながらも、
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