います。そして、わたしはその時も、別に殺そうという気持ちはなかったのですけど……」
「しかし、鉄砲に弾丸が込まっていたことは前から知っていたんだろうがなあ」
「いいえ! わたしはここにかけてある鉄砲はみんな飾物としてかけてあるので、弾丸など込まっていないように思っていたのでございます」
「また、いろいろの鉄砲があるんだなあ。ほう! 刀も……」
巡査はそう言って、そこの壁にかけられてある鉄砲や刀のうえに目を持っていった。
「ですから、わたしは鉄砲で蔦代の胸の辺りを突いて、蔦代を威かしてやろうと思ったのでございます。それなのに……それなのに……」
紀久子はそう言って、涙ぐんだ。
「しかし、引金は引いたんだろう?」
「わたしは引いたような気もしなかったんですけど、やはり……」
「それじゃ、正当防衛としての殺人というよりは過失としての殺人で、どっちにしてもあなたには罪がないわけだ。しかし、一応は本署の調べも受け、裁判も受けなくちゃならんかもしれんね。そしてその時には、おれとだれか、この牧場のだれかが証人というわけになるだろうと思うが、いったい、いちばん先にこの現場を目撃したのはだれかね?」
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