牧夫たちは土足のままで、ぞろぞろとその後に続いた。

       4

 牧夫たちのための食堂になっているコンクリートの土間の、片隅の壁際に石と粘土とで竈《かまど》のように畳み上げられてあるストーブには、薪《まき》が幾本も幾本も投げ込まれた。そして、牧夫たちはその焚《た》き口の前に車座になって腰を据えていた。紀久子はその中央の火に近いところへ、席を空けられた。
「婆や! 婆や!」
 正勝は冷えびえしい沈黙を破った。
「婆や! お嬢さまに着物を持ってきてあげろよ」
 正勝は周囲を目探りながら叫んだが、婆やの姿はどこにも見えなかった。
「婆やは、どこかに腰を抜かしているのかもしんねえぞ」
 だれかが言った。それにつれて、初めてようやく微かな笑いが崩れた。
「仕様のねえ婆やだなあ。それじゃ、おれが行って持ってくるかな」
 正勝は身動《みじろ》ぎながら言った。
「いいわ」
 紀久子は微かに言って、止めた。
「寒くて仕様がねえでしょう?」
「我慢しているわ」
「我慢をしなくたって……」
 正勝がそう言って立ち上がろうとしたとき、廊下のほうから腰を引くようにして婆やが出てきた。
「あっ! 婆やが
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