ったって熊とは決まるめえ」
「熊でも出たんじゃないと、だれもこの夜中に鉄砲など撃つ者はあんめえが……」
彼らは暗がりの中に動きながら、周囲を見回した。
「いったい、鉄砲はいま、だれのとこにあるんだ?」
暗がりの中には炬火が揺らめいた。
「おーい! 鉄砲を撃ったのはだれだあ?」
犬が遠くで吠え立てている。
「鉄砲を撃ったのはどこだあ?」
「おい! 旦那《だんな》の部屋に灯《あかり》が見えるで……」
「あっ!」
「旦那かな? そんじゃ?」
正勝が言った。
「旦那だべ!」
炬火が夜の闇を引き裂いて走っていった。
3
コンクリートの露台に上がると、そこから部屋へのドアは開いたままになっていた。
「おい! ドアが開いてるぞ」
だれかが戸口に立って叫んだ。同時に、牧夫たちはその戸口に殺到した。
「てて、て、大変《てえへん》で……」
部屋の中から婆《ばあ》やが叫んだ。
「あっ! お嬢さまが!」
だれかがそう叫ぶと、牧夫たちは土足のままで部屋の中に雪崩《なだ》れ込んだ。
「どうしたんだね?」
牧夫たちはまず、鉄砲を持ってそこに呆然と立っている紀久子をその目に捉《と
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