れで段取りは終わったわけだ」
 正勝はそう言いながら戻ってきて、蔦代の死骸を抱き起こした。
「蔦がこの部屋まで、短刀を振り上げながら紀久ちゃんを追いかけてきたわけなんだ。そこで紀久ちゃんは正当防衛として、その鉄砲を取って蔦を撃ち倒したというわけなんだ。おれがこうして押さえているから、紀久ちゃんは蔦の傷口に銃先《つつさき》をつけて撃ってくれ」
 正勝はそう言って蔦代の死骸を直立させ、その手を振り上げさせた。
「紀久ちゃんは、鉄砲を撃てるだろう?」
「撃てるわ」
「それじゃ、銃口を傷口へつけて引金を引いてくれ。そして、紀久ちゃんが鉄砲を撃ったら、おれはすぐこの部屋を逃げ出していくから、だれかが鉄砲の音を聞きつけてこの部屋さ入ってくるまで、紀久ちゃんは大変なことをしたというような顔をしてこの部屋から動かねえでいればいいんだ。おれは真っ先に入ってこないで、なにかこう、都合のいいように拵《こしら》えるから」
 正勝は蔦代の死骸の横に立って、その銃口を傷口のところへ持っていった。
「それじゃ!」
「いい?」
「いいよ」
 瞬間! 銃声は轟然《ごうぜん》と窓ガラスを震わして鳴り響いた。
 正勝は手早
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