て帰ったのを敬二郎くんが知っているのだから、とにかくどこまでか一緒に帰ったことにしておかないと具合が悪いな。牧場の近くまで馬車で一緒に来て、牧場の門のところで降ろしたらそのまままたどこかへ姿を隠してしまったことにするか?」
「…………」
「蔦があなたのお父さんに恨みを持っていたってことは、蔦のおれへの手紙を見ても分かる。だから……」
「…………」
「おれたちが無理に連れ戻って、門のところで降ろしてしまってからおれはいっさいなにも知らなかったことにしておこう。紀久ちゃんは紀久ちゃんで、その場の都合でなんとでも申し立てればいいさ。とにかく、おれは門のところまで一緒に来てそこで降ろしたから、あとはいっさい知らねえことにする。蔦の手紙も証拠の一つとして見せる必要はあるだろうが、あとで読んだことにするから。それでいいね」
「正勝《まっか》ちゃんがいいと思うんなら……」
「そんな手筈《てはず》にしておこうじゃないか」
 正勝はそして、喜平の死骸にしゃがみ込んだ。
「これくらいでもういいだろう」
 呟《つぶや》きながら、正勝はふたたび喜平の胸の傷口をその寝巻の端で押さえ、寝室へと入っていった。
「こ
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