つけたまま熊笹藪《くまざさやぶ》の中を歩いた。彼のその足音に驚いて、この地方特有の山鳥が枝から枝へと、銀光の羽搏《はばた》きを打ちながら群れをなして飛んだ。白い山兎《やまうさぎ》が窪地《くぼち》へ向けて毬《まり》のように転がっていったりした。
 しばらくしてから、正勝は道のほうへ出た。しかし、昨日の跡はことごとく落ち葉に埋め尽くされて、ただぎらぎらと火の海のように陽の光に燃え輝いているだけで、猫の額ほどの地面も残ってはいなかった。
 しかし、そこには一つの目標があった。横筋の地肌の暗灰色の幹に、真っ赤な蔦《つた》が一面に絡みついているのであった。そして、はるかの谷底には暗緑色の椴松《とどまつ》林帯が広がり、その梢《こずえ》の枯枝が白骨のように雨ざれているのだった。
 正勝は崖際《がけぎわ》の一本の幹に自分の身体に巻きつけてある綱の端を結びつけ、紅や黄の落ち葉に埋もれながら谷底へと下りていった。綱に掴まり、岩角や灌木《かんぼく》に足をかけて、周囲に求むるものを探りながら谷底へ谷底へと下りていった。
 しかし、そこの地形は崖の上の道からの想像とは、ほとんど違っているのだった。道から見たので
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