に、一緒に遊んでいたときのことを思うと、おれ紀久ちゃんを酷い目に遭わせるようなことは決して言えねえ。安心していろ」
正勝はそう言って、静かに微笑んだ。紀久子は身体の箍《たが》が全部緩んだような気がしながら、目が熱くなってきてなにも言うことができなかった。正勝は微笑みながら繰り返した。
「本当になにも心配しなくていい」
「どこかへ行って困ったら、いつでもわたしがお金を送ってあげるわ」
「金なんかいらないよ」
正勝はそう言って、その長い綱を身体に巻きつけたまま、静かにそこを歩き出した。
「正勝ちゃん! どこへ行くの?」
紀久子は怪訝そうに訊いた。
「心配しなくてもいい」
正勝は振り向きもしないで歩いていった。
「そんなものを巻きつけて。でも、どこへ行くつもりなの?」
正勝はもう返事もしなかった。彼はズボンのポケットに両手を突っ込んで、厩舎の横から放牧場の雑草の中へと、静かに歩み消えていった。
2
闊葉樹《かつようじゅ》の原生林は紅《あか》や黄の葉に陽が射して、炎のように輝いていた。
正勝は陽にきらきらと輝きながら散る紅や黄の落ち葉を浴びながら、綱を身体に巻き
前へ
次へ
全168ページ中65ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐左木 俊郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング