らひらと飛ぶような恰好《かっこう》をして近寄った。
「何してんの?」
 紀久子は正勝の顔を覗《のぞ》き込むようにして言った。
 しかし、正勝は黙りつづけていた。そして、彼は黙りつづけながら陽射《ひざ》しのほうに背を向けて、第三厩舎の中央の柱にかけてある長い綱を、放牧馬捕獲用の長い綱を、自分の身体にぐるぐると巻きつけていた。
「正勝ちゃん! 何してんの?」
 紀久子は怪訝《けげん》そうに、しかし馴《な》れなれしく繰り返して訊いた。正勝は依然として答えなかった。彼は黙りつづけながら、やはりその長い綱を自分の身体へぐるぐると巻きつけるのだった。
「正勝ちゃん! あなたはどこかへ行くつもりなの?」
 紀久子は恐るおそる、そう、しかし甘えるようにして、正勝の顔を覗き込むようにした。
「心配しないでもいい」
 正勝は初めてそれだけをぼそりと言った。そして、またその長い綱をほぐしては巻き、ほぐしては自分の身体に巻きつけた。しかし、紀久子は正勝の言葉を聞いてほっとした。
「何をするの? その綱で?」
「紀久ちゃんを酷い目に遭わせるようなことはしないから」
「どこかへ行くの?」
「そりゃあ行くさ」
「ど
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