からおれらを引き取って何になるんだ。おれらを引き取ったのだって、育てておいて扱《こ》き使ってやるつもりだったのだろう」
「なんだと? 育てられた恩も忘れやがって……」
「何が恩だ? おれらの親父はきさまの財産のために生命をなくし、そしてお袋はきさまの色事のために生命をなくしているのに、何が恩だ? 恩を返せっていうのか? そんな恩ならいつでも返してやらあ」
「この馬鹿野郎め! 黙っていりゃあとんでもねえことばかり吐かしやがって! てめえのような奴は出ていけ! てめえのような奴は置くわけにいかねえから」
 喜平は鞭を取って、書卓の上を殴り散らしながら叫んだ。
「もちろん出ていく!」
「いまのうちに出ていけ!」
「出ていくとも」
 正勝は喜平を睨みながら立ち上がった。
「すぐ出ていけ!」
「出ていくとも! その代わり近々のうちに恩を返しに来るから、忘れねえでいろ、貉親爺《むじなおやじ》め!」
 正勝は喜平を睨みつけながら、捨科白《すてぜりふ》をして部屋を出ていった。

 隣室の激しい爭いにじーっと耳を立てていた紀久子は、正勝が出ていくと急いでベッドを下りた。そして、紀久子は自分の用箪笥《よう
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