突き落として、過って落ちたんだとか自殺したんだとか、なんとかかんとかいうことにしてごまかしてしまったんじゃねえか?」
「正勝! てめえは本当にそう思っているのか?」
 喜平は顔色を変えて、わなわなと身体を顫わせながら叫んだ。
「もちろん!」
 正勝も身体を顫わせながら叫んだ。
「もちろんさ! いまの様子を見ても分かることなんだ? 開墾した土地の半分くらいは自分の土地として貰《もら》えるはずで内地からはるばる移住してきた人たちが、自分の土地ってものを猫の額ほども持たねえで、自分たちが死ぬほど難儀して開墾した土地さ持っていって、高い年貢を払って耕しているじゃねえか?」
「何を馬鹿なことを吐かしているんだ。てめえなんかに分かることか? 馬鹿なっ!」
「そして、おれらの親父が死んでお袋が生活に困りだすと、おれらが子供でなにも分からないと思いやがって、お袋が生活に困っているのに付け込んでお袋を妾《めかけ》に、妾にして、子供まで孕まして……」
「嘘《うそ》をつけ!」
「嘘なもんか! おれらのお袋はそれを恥じて自殺したんだぞ。子供まで孕ましておきながら、ろくに食うものも宛《あてが》わねえで、自殺して
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