、その右手をわなわなと顫わしながら、赤酒《せきしゅ》らしい赤紫色の液体をなおも紀久子の口に勧めようとしていた。
「お嬢さま! 本当にしっかりなさいませんと……これをもう少し召し上がりませんかよ? お嬢さま!」
「あら! 婆や! わたしどうかして?」
「お嬢さまはじゃあ、なにもご存じございませんのかよう? わたしがお嬢さまにお茶を差し上げようと思いましてお茶を持ってまいりましたら、お嬢さまはそこに倒れていらしったのでございますよ」
「あら! わたしどうかしたのかしら?」
「わたしはまたびっくりいたしまして、すぐにここへ抱き上げて、それからはすぐに赤酒を持ってきて差し上げたのですがね」
「あら! それ赤酒なの? 葡萄酒《ぶどうしゅ》じゃないの? 赤酒なら貰《もら》うわ。わたし、赤酒大好きよ」
紀久子はそう言って、蝋《ろう》のように白く、微《かす》かにわなわなと顫えている手を差し伸べてその赤酒をぐっと飲み干した。
「お嬢さま! お嬢さまはどこかお悪いのじゃございませんか」
「なんでもないわ。どこも悪くないのよ。脳貧血を起こしたのだわ」
「脳貧血だって、どこかお悪くないと……お嬢さまは、昨夜
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