出ていけ!」
「それじゃあひとつ、出ていかれますように、お金を少し都合していただきてえんですが……」
「金? そんなことわしの知ったことか? てめえのような者に金を出してやる理由なんかありゃしねえ!」
「旦那! 昔のことを少し考えてみてくだせえ」
「なにを!」
「旦那は、おれがなにも知らねえと思っているのかね?」
「何を吐《ぬ》かしやがるんだ? たわけめ!」
「おれはこれでも、旦那一家の秘密を握っているんですからなあ」
「秘密? たわけめ! なんの秘密だ? わしを威《おど》かして金を出させようというのか? このたわけ者め!」
喜平は立ち上がって鞭を振り上げた。正勝は肘《ひじ》で顔を掩《おお》った。鞭はぴゅっと空間で鳴った。
8
紀久子は、ばたりと床の上にくずおれた。
(あらっ! 秘密だなんて、あの人はあのことを言ってしまうのだわ)
彼女はそれっきりで、もうなにも分からなくなった。
9
紀久子は自分のベッドの上で横たわっているのに気がついた。
「お嬢さま! お嬢さま! お気づきになりまして?」
婆《ばあ》やが間近く顔を寄せながら言った。そして
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