房に半円を描かせた。すると花房は、右の前脚がだらりとして、それに力のないような歩き方をした。
「変だなあ?」
「筋が伸びたんだよ。膝《ひざ》を突いたときに筋が伸びたんだから、なんでもねえ。三、四日も休ませておきゃあ治るよ」
「なんでもねえかなあ?」
「なんでもねえとも。しかし、三、四日は乗れねえなあ。北斗《ほくと》かなんかに乗りゃあいいじゃねえか?」
「また親父《おやじ》に怒鳴られるなあ」
「隠しておきゃあいいじゃねえか。三、四日のことだもの」
 そして、松吉はややもすれば駆けだそうとする栗毛の手綱を引き締め、正勝は跛《びっこ》を引く葦毛を曳いて、放牧場の斜面を新道路のほうへと下りていった。
「どうかしたのか?」
 平吾が黒馬の上から声をかけた。平吾はそうしているうちにも、いま捕まえたばかりのサラブレッド系の新馬浪岡が思うように手綱につかないので、困り切っていた。
「なんでもねえ。前脚の筋が少し伸びたらしいんだ。ほんで乗れねえんだよ」
「おい! ほんじゃ、この浪岡をおまえが曳っ張っていけ。新馬も曳っ張らねえで歩いていくと、親父がまたなんかかんか言うから」
「それさなあ。ほんじゃ、その浪 
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