は手綱を緩めて、花房の走るに委《まか》せた。花房は疾風のように飛んだ。正勝はまったく手綱を緩めて、若いしなやかな脚の走るに委せながら、反動も取らずに鐙《あぶみ》の上に突っ立っていた。
「おっと!」
 叫んだ瞬間に、正勝は草原の上へどっと投げ出されていた。しかし、どこにも怪我《けが》はなかった。すぐ起き上がって花房のほうを見ると、花房は足掻《あが》きをして起き上がろうとしながら起き上がれずにいた。
「どうしたんだ?」
 栗毛の松吉が駆け寄りながら言った。
「前脚を折ったらしい」
「折ったって?」
「折ったわけでもねえらしいが……」
 言いながら、正勝は、手綱をぐっと引いた。
「ほらっ! 畜生!」
 花房は起きようと努めながら、容易に起き上がれなかった。
「畜生! ほらっ! どうしたんだい?」
「手綱を放して、尻《しり》っぺたを食わしてみろ!」
 正勝は松吉の勧めるままに、手綱を放して尻に回った。そして鞭《むち》を振り上げると、花房はふた足三足ぐいぐいと足掻きをして、鞭を食う前に起き上がった。
「なんでもねえねえ」
「歩かしてみろ! 少しおかしいから」
 正勝は手綱を取り、鞭を振り上げて花
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