置に、土手で取り囲んだ屋敷を構えているのだった。その周囲には春楡《はるにれ》や山毛欅《ぶな》などの巨大な樹木が自然のままに伐《き》り残されていて、ひと棟の白壁の建物が樹木の間に見え隠れていた。そして、その屋敷の前から二間幅(約三・六メートル)の新道路が三、四町(約三三七〜四三六メートル)の間を、放牧地の草原を一直線に割って走っていた。
白壁の建物は日本建築ながら洋風めいていて、南向きの広い露台を持っていた。木材の多い地方ではあるが雪に埋もれる期間が長いので、露台はコンクリートでできていた。コンクリートの階段と手摺《てす》りとがあり、階段の上がり口には蘇鉄《そてつ》や寒菊や葉蘭《はらん》などの鉢が四つ五つ置いてあった。
露台の中央には籐《とう》の丸テーブルと籐椅子《とういす》とが置かれて、主人の森谷|喜平《きへい》は南に向いて朝の陽光をぎらぎらと顔に浴び、令嬢の紀久子は北を向いて陽光を背に受け、向き合って腰を下ろしていた。丸テーブルの上には二つの紅茶|茶碗《ぢゃわん》が白い湯気を立てていた。そして、喜平は紅茶には手を出さずに、林檎《りんご》の皮を剥《む》いていた。
「脚《きゃく》がよ
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