じゅ》が群立して原生樹林帯はしだいに奥暗くなっていった。暗灰褐色の樹皮が鱗状《うろこじょう》に剥《む》き出しかけている春楡の幹、水楢《みずなら》、桂《かつら》の灰色の肌、鵜松明樺《さいはだかんば》、一面に刺《とげ》のある※[#「木+忽」、4−1]木《たらのき》、栓木《せんのき》、白樺《しらかば》の雪白の肌、馬車は原生闊葉樹の間を午後の陽に輝きながら、ばらばらと散る紅や黄の落ち葉を浴びて、落ち葉の道の上をぼこぼこと転がっていった。
「ほいやっ、しっ!」
 道はその右手に深い渓谷を持ち出して、谷底の椴松《とどまつ》林帯はアスファルトのように黒く、その梢《こずえ》の枯枝が白骨のように雨ざれていた。谷の上に伸びた樹木の渋色の幹には真っ赤な蔦《つた》が絡んでいたりした。馬車はぎしぎしと鳴り軋《きし》みながら、落ち葉の波の上をぼこぼこと沈んでは転がり、浮かんでは転がっていった。
「おいっ! 正勝《まさかつ》くん! 鉄砲を持ってきているんだね。危ないじゃないか。弾丸《たま》は入っていないのか?」
 馭者台の猟銃に気がついて、敬二郎はそう言いながら猟銃に手を出した。
 瞬間! 猟銃は轟然《ごうぜん》と
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