空から陽が斜めに射《さ》し込んだ。玻璃色の陽縞《ひじま》の中にもやもやと水蒸気が縺《もつ》れた。樹木の葉間《はあい》にばたばたと山鳥が飛び回った。落ち葉の海が真っ赤に、ぎらぎらと火のように輝きだした。正勝の心臓はどきどきと激しく動悸《どうき》を打ってきた。
「あら! ずいぶんどっさりいるのね」
紀久子は樹木の枝を見上げながら言った。蔦代もその言葉に釣り込まれて目を上げた。濡れ葉を叩きながら、山鳥は幾羽も枝から枝に移り飛んでいた。紅や黄の濡れ葉がぎらぎらと午後の陽に輝きながら散った。
「正勝! あれ山鳥なの?」
「さあ?」
正勝は気のない返事をした。
「きっとあれは山鳥よ。わたしでも撃てそうね。撃ってみようかしら?」
紀久子はそう言って横から猟銃を取った。そして、弾嚢帯から弾丸を銃に込めた。
「正勝! 馬車をちょっと停めてよ。わたしだって撃てると思うわ」
馬車が停まると、紀久子は微笑《ほほえ》みながら立ち上がって樹上に狙いをつけた。紀久子の戯れだった。狙いは続いた。
じっと紀久子の様子を窺《うかが》っていた蔦代は、その隙に乗じて包みを取って馬車から飛び降りていこうとした。
「蔦
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