る。次に、敬二郎をやっつける機会を安全に持つことのできるような方法は……)
正勝は考えるのだった。
(そうだ! そうすればいいんだ!)
ある一つの想念が、彼の頭を掠《かす》め去っていった。
(おれは木の枝へ引っかかったことにすればいいんだ。紀久子を乗せたまま馬車は谷底へひっくり返しておいて、おれはあとから馬車が墜落していった跡の木の枝へ引っかかっていて、だれかの通りかかるのを待っていればいいのだ)
彼はそう考えて、急に勇気づいてきた。同時に心臓の鼓動が激しくなってきた。全身の活動力がその考えに向かって集中してきた。
7
馬車はふたたび原生樹林の中に走り込んだ。
突然に山時雨《やましぐれ》が襲ってきた。紀久子は狼狽しながらパラソルを広げて、その中に蔦代をも引き入れた。原生樹林の底は急に薄暗くなってきた。時雨は闊葉樹林の上に幽寂な音楽を掻《か》き立てながら渡り過ぎていった。馬車は雨に濡れ、雨に叩き落とされる紅や黄の濡れ葉を浴びながら、原生樹林の底を走った。
やがて、幽寂な山時雨の音が遠退《とおの》くにつれて、原生樹林の底はふたたび明るくなってきた。孔雀青の高い
前へ
次へ
全168ページ中19ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐左木 俊郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング