計画を果たそうと思っていたのだった。生命を懸けてなら、二人を殺しておいて自分も死んでしまえばいいのだから、機会はいくらでもあった。しかし、それは考えてみると馬鹿らしいことだった。彼はしだいに、敬二郎と紀久子とを殺してしまったあとも、自分だけは安楽のうちに生きていたかった。彼はそれからというもの、絶えずその手段について考え、またいろいろの機会を狙《ねら》った。しかし、正勝は容易にその適当な手段を思いつくことができなかった。そして、最後に思いついたのが、馭者台に熊の出る季節だからという口実で猟銃を横たえておき、敬二郎がそれに対する好奇心からその銃を取ろうとすると、引金に紐《ひも》がかかっているため敬二郎の腋《わき》の下を貫き、紀久子の胸を貫くことになる計画だったのだけれど、それも見事失敗に終わってしまった。そしてさらに、谷底へ馬車をひっくり返すことを思いついたのだが、これについても、彼の計画は相当細かく考えたにもかかわらず、またも支障を来しそうになってきたのだ。
(なんとかならないものかな? 紀久子と馬だけを谷底へ落として、おれは生きていて、そして疑われずに敬二郎の苦悶するのを傍から見てい
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