な焦燥に駆られて、敬二郎は夜もろくろく眠ることができなかった。その不眠の焦燥がまた彼の神経をなおも酷《ひど》く衰弱させて、さらに激しい憂鬱と不安との渦巻きの中に追い込んだ。皮膚と筋肉との間を痛痒《いたがゆ》い幾百の虫が駆け巡っているような憂鬱感だった。敬二郎にとっては、もはや生命《いのち》を懸けての決心を持つべきときだった。
(紀久ちゃんを失うことは、同時にまた森谷家の相続権をも失うことだ。紀久ちゃんと森谷家の相続権と、この二つを失ってしまったら、自分にはいったい何が残るだろう? 何物もないではないか?)
敬二郎はそれを考えて、憂鬱な溜息《ためいき》を繰り返さずにはいられなかった。
(あらゆるものを失って惨めな姿で生きているくらいなら、いっそのこと死んでしまったほうがいいのだ)
あらゆるものを失ったとき、人間は勇敢になることもできれば捨て鉢になることもできる。
(正勝に会って最後の談判をしてみよう。それと同時に、紀久ちゃんの気持ちも分かるに相違ない。生か? 死か? それからだ)
敬二郎は固い決心をもって胸を顫《ふる》わせながら、正勝の来るのを待った。彼は顔を伏せて、露台の上をこつ
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