踊って見せないか?」
「わたしの踊りなんか駄目だわ。それに着物がこれでは……」
「構わないさ。簡単でいいから、何か踊って見せてくれよ」
「できないんだけど……」
 紀久子は微笑を含んでそう言いながらも、手を振り足を上げながら静かに踊りだした。開墾地の人たちは何事も忘れて、呆気に取られてそれを眺めていた。彼らは夢を見るようにして、そこに展開された思いがけぬ空気に驚異と喜悦との目を瞠っているのだった。
「これでもういいでしょう?」
 紀久子は恥ずかしくてならないように、顔を真っ赤にして言った。
「ありがとう! それじゃ、帰ろうか?」
「帰りましょう。平吾を寒いところに待たしておいちゃ、かわいそうだから」
 正勝と紀久子とは揃《そろ》って席を立った。
「正勝さん! おれらは本当に、あなたさまを神さまのように思っているでがすよ」
「お嬢さま! あなたさまも、ぜひとも正勝さんと一緒になってくだせえましよ。おれらのお願いですから」
 開墾地の人たちはそんなことを言いながら、正勝と紀久子とを戸口へ送っていった。

       5

 開墾地の人たちは炉端へ戻ると、互いにその赤い顔を見合わせた。

前へ 次へ
全168ページ中147ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐左木 俊郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング