目が見えなくなってしまうっていうんで、手術をしてもらうべと思ったら、それにゃあ百五、六十円はかかるっていうんでがす。しかし、片方の目どころか両方の目が見えなくなったって、おれにはそんな大金ができねえから、村の人たちと相談してみたところ、村の人たちが全部保証人になって雑穀屋から借りてくれるって言うんで来たのですが、雑穀屋も百五十両からとなると……」
 開墾地の稲吉《いなきち》はそこまで言って、啜《すす》り泣くようにして笑いだした。
「おれらが保証人になって、今年は五十円だけ、そして来年も五十円だけ、そして再来年には全部|返《けえ》させるし、利子も相当につけさせるからって言ったんですが、おれらを信用しねえでがすよ」
 喜代治《きよじ》は炉の中へ三度ばかり唾《つば》を吐きながら、唇を突き出すようにして言った。
「稲吉さん! 百五十円あれば、それで目が見えるようになるのかね?」
 正勝はそう言って唇を噛《か》んだ。
「見えるようになるというんですが、片方の目を百五十円も出しちゃ……」
「見えるようになるのなら、おれがそれを出してやろう」
 正勝はそう言いながら蟇口を取り出して覗《のぞ》き込んだ
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