な胸を、しかしぐっと引き締めるようにしながら、ふたたび馬腹へ拍車を加えた。
3
正勝は馬を下りると路傍の馬|繋《つな》ぎ杭《くい》に馬を繋いで、吾助茶屋に入っていった。
薄暗い居酒屋の土間には、開墾地の人たちが五、六人ばかり炉を囲んでいた。彼らはいっせいに戸口のほうを振り向いた。正勝は微笑を含んで、炉のほうへ寄っていった。
「正勝さんだで」
「さあ、正勝さん! ここへおかけなせえよ」
開墾地の人たちはそう言って、正勝のために自分の席を譲った。
「雑穀屋へ来たのかね。今年はどんなだね? 穀類のほうは?……」
正勝はそう言いながら、腰を下ろした。
「今日は雑穀屋の旦那《だんな》のとこさ、相談に来たのですがね。相談にならねえで、はあ物別れのまま帰ってきたところですが、業腹なものだからここで一本|貰《もら》って……」
開墾地の彦助爺《ひこすけじい》が鼻水を押し拭《ぬぐ》いながら言った。
「やっぱりそれじゃ、今年も値段が折り合わねえのかね?」
「今日の相談は、こっちも少し無理かもしんねえがね。おらんちの嬶《かかあ》が目を悪くして病院さ入れたんでがすが、手術をしなくちゃ
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