け開墾地の人たちへ分けてやりたいというのなら、結婚は困るけど財産のほうだけ半分上げてもいいわ」
「そんな考えを起こしちゃ駄目だよ」
「だって、敬さんはわたしと結婚するんでしょう? わたしの家の財産と結婚するわけじゃないでしょう。それなのに、敬さんだけ両方とも取っちゃ正勝が少しかわいそうだわ。正勝の妹を殺した代わりにでも、財産の半分ぐらいなら正勝へ上げてもいいと思うわ」
「ぼくはそれには不賛成だ。紀久ちゃんがぼくを本当に愛していれば、そんなことは考えられないはずだ。ぼくを本当に愛していれば、結婚と同時に財産も全部二人の幸福のためにと……」
「敬さんは欲張りなのね」
「当然のことじゃないか? それだけだって、ぼくたちは早く結婚をしてしまわないといけないのだよ。結婚をしてしまえば、だれもそんな考えは起こさなくなるから。起こしたって……」
「では、春になったら……」
「おーい! 紀久ちゃん! 紀久ちゃん!」
 だれかが後ろから大声に呼んだ。敬二郎と紀久子とは軽い驚きをもって振り返った。正勝だった。正勝は馬に乗って、枯草原の中を毬《まり》のように丸くなって飛んできた。
「紀久ちゃん! 早く来いよ
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