なかった。
「結婚なんか、だってしようと思えば明日にでもできることなんだから」
「それはそうだがね。しかし、ぼくらが結婚してしまわないうちは正勝の奴、気持ちは静まらないと思うがなあ。奴は紀久ちゃんと結婚して、森谷家の財産の半分は開墾地の人たちへ分けてやることを考えているらしいから。考えているだけじゃなく、他人にももうその話をしているそうだから」
「それは、財産のほうなら半分ぐらい正勝に上げてもいいわね」
 紀久子は極めてあっさりと言った。
「紀久ちゃん! 紀久ちゃんはそんなことを、本気に考えているのかい? もしそんなことが正勝の耳へでも入ったら、きゃつはどんなことをするか分からないよ」
 敬二郎は驚きのあまり、手綱を手操りながら言った。
「だって、敬さんはわたしと結婚するんでしょう?」
「しかし、正勝の奴も紀久ちゃんと結婚をして……」
「そんなことできないわ。わたし敬さんと正勝と、二人と結婚するわけにはいかないわ。わたし、正勝となんか結婚したくないわ」
「それだから、ぼくらは早く結婚をしてしまわないといけないんだよ」
「それでも、正勝がわたしと結婚して、わたしの家《うち》の財産の半分だ
前へ 次へ
全168ページ中133ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐左木 俊郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング