いのよ。かりにそれが過失……正当防衛にもしろ、正勝のただ一人の妹を殺したのはこのわたしなんだから、わたし、正勝になんとなく済まない気がするわ。済まない気がして、正勝にはできるだけのことはしてやりたいと思うのよ。誤解されちゃ困るわ」
「別に誤解はしないがね。しかし、その済まないという気持ちはどうかすると、危険なものになりゃしないかと思うんだがね。すでにもう、正勝の奴は紀久ちゃんのその気持ちを履き違えているようだから」
「そんなことないと思うわ。そんな馬鹿なこと、決してないと思うわ。それだけは、わたしはっきりしておくわ。そして、お蔦に対する詫《わ》びの気持ちから正勝のほうへできるだけのことをしてやりたいわ」
紀久子は胸を弾ませながら言った。
「それには、やはりぼくたちが早く結婚をしてしまわなくちゃいけないね」
「そうかしら? わたしはそうは思わないわ。結婚なんか来年でも再来年でも、いつでもいいと思うわ」
「紀久ちゃんはそう思っているのか?」
敬二郎は驚きの目を瞠《みは》って言った。彼の胸は潮騒《しおざい》のように忙《せわ》しく乱れていた。彼は紀久子の顔から、いつまでも目を離すことができ
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