を割って、ふたたびがらがらと動きだした。敬二郎は平吾と松吉とに目配せをした。そして、三人はひらりと馬に跨《またが》った。
「紀久ちゃん!」
 正勝は叫びながら、茶屋の軒下を飛び出していった。
「あらっ、正勝《まっか》ちゃんも……」
 紀久子は驚きの微笑を含んで、振り返った。
「おれをその横へ乗せてくれ」
 正勝はそう言いながら、動いている馬車に飛び乗って紀久子と並んで腰を下ろした。そして、馬車は二人を乗せて駆けた。その後から敬二郎と松吉と平吾の三匹の馬が、蹄鉄をぽかぽか鳴らしながらついていった。

       3

 開墾地の人たちは急転した空気の中で、呆気《あっけ》に取られたようにして馬車を見送った。
「敬二郎の野郎は正勝さんに一緒に馬車に乗られたんで、妬《や》いているに相違ねえべぞ」
 だれかが言った。
「腹が煮え繰り返るってやつだべさ」
 笑いながら、まただれかが言った。
「それで、お嬢さまはどっちが好きなのかな?」
「そりゃあお嬢さまにしてみりゃあ、敬二郎さんがいいにちげえねえさ。敬二郎さんと正勝さんとじゃ、鶴《つる》と鶏とぐれえ違うじゃねえか? そりゃあ敬二郎さんのほうがい
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