ばかり言って、困るなあ」
敬二郎は溜息《ためいき》を吐《つ》くようにして言った。
「正勝!」
怒鳴りながら平吾が前へ出た。
「手出しをしてみろ!」
開墾地の人たちが肩を持ち上げながら、ぞぞぞっと歩み寄った。
ちょうどその時、そこへ一台の幌馬車《ほろばしゃ》が通りかかった。幌馬車はそこに立っている馬や人々のために進路を遮られた。敬二郎らは馬を路傍へ寄せた。開墾地の人たちも、正勝と一緒に吾助茶屋の軒下に退いた。
2
幌馬車には紀久子が乗っていた。
「敬さん! どうしたんですの?」
紀久子は馬車の上から声をかけた。彼女はその目に、馬を曳《ひ》いて路傍に避けている敬二郎らだけを捉《とら》えて、茶屋の軒下に避けて開墾地の人たちの中に交じっている正勝の姿には気がつかなかった。
「おっ! 紀久ちゃん!」
敬二郎は驚きの目を瞠りながら、馬を曳いて馬車のほうへ寄っていった。
「わたしの帰るのが分かったの?」
「こんなに早く帰るとは思わなかったんだが……」
「迎えに来てくれたの? ありがとう。では、帰りましょうか?」
紀久子は微笑をもって言った。そして、紀久子の馬車は沈黙
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